パトレイバー the Move 2を振り返る。愛すべき表舞台に立てない大人たちの人間ドラマ。

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「大人になってロボットアニメを見ることが億劫になってきている」

日々の仕事や恋愛、家族との関係。
人間は目の前に押し寄せてくる日常の連続に潰されがちだ。

昔のように心躍らせながらロボットアニメを見ることもないし、それだけの気力も若さもない。

そんなあなたに、腰を据えてザラついたエスプレッソを片手にゆっくりと見て欲しいアニメ「機動警察パトレイバー 2 the Movie」をご紹介します。

機動警察パトレイバーとは?



ヘッドギアが作成した1980年代のアニメ、機動警察パトレイバー。

20世紀末を舞台に展開するSFドラマで、ロボット「レイバー」が普及した 近未来世界で警察が運用する「パトレイバー」をメインメカにゆうきまさみ、押井守ら才能豊かなメンバーで構成されたヘッドギアが生み出した傑作アニメ。

本広克行監督が、踊る大捜査線を制作する際に強く影響された存在で
アニメ好きの枠を超えて、様々なジャンルの専門家に愛されている。

TVアニメ版はパトレイバー隊「特車2課」の日常を描くパートに人気があり、
主人公の泉野明。その恋人の篠原遊馬の子供っぽいけれど微笑ましい恋愛だったり、

どこか飄々とした雰囲気を持つ後藤喜一隊長のアニメヒーローらしからぬ、リアルなおじさんの達観した台詞や考え方など、アクション性よりも人間同士の掛け合いに重点が置かれた内容。

アニメ版はコミカルなパートや、グリフォンという悪役メカとの決戦などいわゆる当時のアニメにありがちなスチーリーがメインでしたが
映画版は、重厚な人間ドラマが展開する大人でも楽しめる作品となってる。

ロボットの影が薄く、魅せる人間ドラマに注力した異色作


『機動警察パトレイバー 2 the Movie」ではパトレイバーはオープニングの冒頭に数分登場するばかりで以後映画後半になるまで登場しない。ロボットアニメにあってなかなか珍しい内容。

途中登場する、レイバーたちも四速歩行ばかりで子供の好きな人型ロボットではないところから、
この映画が子供向けでないシリアスな内容。であるという押井守監督の主張が見えます。

主人公はテレビ版の若々しくかわいい女の子、泉野明ではなく
疲れ切った係長後藤喜一(42) とキャリア組から道を外れてくすぶっている南雲しのぶ(33)。

ヒーローヒロインばかりが目立つアニメでも異色のラインナップ。だがそれが味があって、渋く深みを持たせている。

物語は南雲しのぶの元恋人、柘植行人のベイブリッッジ爆破という衝撃的な幕開けに始まり、
過去の恋愛、平和の裏側にある戦争とどこかニュースの端切れで見覚えのあるストーリー。

ロボットのアクションはほんのエッセンスで、
深く描写された人間ドラマはシックでやや陰鬱なタッチのアニメ背景の中、しっとりと進んで行く。

異常なまでに書き込まれた背景と、心情を映し出す動きの少ないアニメーション



例えばジブリ作品。
もののけ姫や風立ちぬなど、人物以上に背景を書きこみ世界中から評価されていることは皆さんもご存じでしょう。

背景画家島倉二千六は黒澤明など多くの映画監督に重宝され、また愛されもした。

映画における背景とはその作品における作り手のこだわりを強く反映させる鏡。
静かに映る背景には監督の伝えたかった何か、が宿る。

機動警察パトレイバー 2 the Movieの背景は繊細で、写実的でありながらも水彩画のようなおぼろげでどこか懐かしい雰囲気にあふれている。

時代背景は現代のようなスマートフォンやインターネットが発達した時代ではなく、代わりにロボット技術が発達した世界。

街並みや人々の服装は80年代の日本をそのままタイムスリップさせたようなレトロ感満載の、少し違和感があり、またそれが面白くもあるパラレルワールド。

そんな世界の背景は、日本の下町や表舞台とは懸け離れた古ぼけた家屋、かつてのバブルに取り残されたようなビルや広告に入り混じって、日本の影を表現しているようにも見えてくる。

VHS(ビデオテープ)で再生される事件の光景は、古い歌謡曲カラオケのバックグラウンンドとして再生され、パトレイバーの登場人物たちはブラウン管に顔を湾曲させながら映り込み、事件の真相をつかもうと、ああだ、こうだと話し合う。

かつて、日本人は戦争を仕掛けた挙句敗れ、その事実から逃げるように世界中の戦争から遠ざかり「平和」という言葉を掲げて、時には縋り現代社会を作り上げてた。

パトレイバーのレトロな日本を思わせる背景や描写は
そんな日本人のかりそめの平和を嘲笑うかのように、ノスタルジックに、また物悲しく描かれてみるものの心を揺さぶるのだ。

戦争亡き後の平和とは?男と女の愛情とは?ストーリーは急速に展開していく



事件の主犯、柘植行人は90年代に自衛隊レイバー小隊を率いて東南アジアの紛争地帯でPKO(国連平和維持活動)に参加。

日本は1992年からPKOに参加していますが、活動内容は憲法9条の厳しい制約に置かれ戦闘行為は規制されている。

柘植率いる部隊は、反政府ゲリラからの攻撃を受けるものの、上層部から発砲許可を得られず、柘植一人を残して全滅してしまう。

柘植は平和という大きな鎖を維持する憲法のせいで部下を失しない、密林の奥地、アンコールワットの前で立ち尽くす。

数年後、日本に戻ってきた柘植は戦争やテロと戦い続けている世界の中で、
日本は危険に犯されることなく平和を享受し、甘えて生きる姿を見て日本をぬるま湯のような世界から目覚めさせるべく、行動を起こすことになるの。

金や復讐心、政治的要求などすることもない柘植は
平和な日本に、戦勝状態を引き起こすことで人々の意識の改革を図ろうとした思想犯。

そんな非論理的でセンチメンタルな大規模テロリストと過去恋人同士だったのが、主人公後藤隊長の相棒である南雲しのぶ。

過去にレイバー研修のため二人は行動を共にし、恋人であり師弟関係でもあった。

行方不明になった柘植の傷を引きづりながらも南雲はパトレイバー隊の隊長として平和の守り人でもある警察で生きてきた。

そんな二人が、戦争を引き起こすテロにより再開し、決して許されることのない感情を交わしあう。

テロリストが恋人だったこと。その彼を止められなかったこと。
南雲しのぶが佇む、古い縁側には細かく、肌に当たるとすぐに消えてしまいそうな弱々しい雪が降り続き物語は、想像しえなかっったラストに向かって展開していく。

ゆったりと繊細に描かれるレトロな世界。
その世界の中でお互いの感情を表に出せないままに、戦い続ける大人たち。

パトレイバー Move the 2にはレトロ感と古めかしいロボットの機械音の中に、
表舞台で活躍できない大人の悲しい背中を描き、今も多くのファンに愛され続けています。

ライター【スニッカー北村】

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