Read this article in English →
PS3の周辺機器が、発売から16年たった2026年の秋にいきなり主役になった。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(当時はSCE)が2010年3月18日に9,980円(税込)で売り出した地上デジタルレコーダーキット CECH-ZD1J——いわゆる torne のチューナーだ。これをPS3から引きはがし、PCにつないで録画サーバーのチューナーとして動かす手法が10月末にかけて一気に広まり、ハードオフのジャンク箱に埋もれていた個体が次々とレジに運ばれる事態になっている。
仕掛けはオープンソースのソフト群だ。Till0196さんが公開している coax がチューナー内部の富士通 MB86H47A と DiBcom DiB8096 の制御を解析し、USBにつないだだけでISDB-Tのストリームを取り出せるところまで持っていった。さらにWindowsのTVTestから使うための BonDriver_coax、Linuxでpx4_drv互換のデバイスを生やす torne_drv、Mirakurunから叩く NeToRne と、10月27日までに関連リポジトリが立て続けに動いている。
ただし、この祭りには誤解と注意点がセットでついてくる。torne はチューナーの名前ではないし、4本あるソフトは「torne本体のディスクが必要かどうか」で性格がまるで違う。そして日本でTS抜きを語るなら、B-CASのスクランブル解除という法的リスクの話を避けて通れない。
この記事では、CECH-ZD1J というハードの中身、4つのソフトの役割分担と使い分け、PCで録画サーバーにするために必要なもの、受信が安定しないときに効くフォークの修正内容、そして法的リスクと中古相場までを順に整理する。正直、この手の「動かないはずのものが動く」話にはめっぽう弱い。
先に結論を書いておく。coax 単体なら torne のディスクは不要だが、NeToRne はディスクのダンプが前提になる。ここが4本のソフトを比べたときの最大の分岐点だ。
torne(CECH-ZD1J)とは何だったのか?2010年発売の地デジレコーダーキット
torne はPS3でテレビを見て録る機能の名前で、CECH-ZD1J はそれを使うための地上デジタルレコーダーキットの型番だ。
2010年3月18日発売、希望小売価格9,980円(税込)。キットには地デジチューナーユニットとアプリが入っていて、「torne」という呼び名はチューナーユニットそのものを指すと誤解されがちだが、ソニー側はあくまでアプリケーションの名称としている。名前の由来は「録るね」と「トルネード」の組み合わせだ。
特異なのは、PS3側のシステムソフトウェアに手が入っていた点だ。予約録画の時刻になるとPS3が自動で起動し、終わると自動で落ちる。起動音は鳴らない。この作り込みがあるからこそ、PS4やPS5では同じチューナーが使えない。torne アプリ自体はPS5(2021年11月24日配信開始)・PS4・PS Vita・Vita TV・Android・iOSにも広がったが、CECH-ZD1J が刺せるのはPS3だけだ。
そして中身のチップが今回の鍵になる。coax のボード定義には、富士通 MB86H47A と、DiB8000復調器+DiB0090チューナーを1パッケージにした DiBcom DiB8096 が載っていると明記されている。USBのVID:PIDは054c:04b2、チューナーは1本、伝送方式はISDB-Tだ。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 型番 | CECH-ZD1J(地上デジタルレコーダーキット) |
| 発売日・価格 | 2010年3月18日/9,980円(税込・当時の希望小売価格) |
| 搭載チップ | 富士通 MB86H47A / DiBcom DiB8096(DiB8000+DiB0090) |
| USB ID | 054c:04b2 |
| チューナー数・方式 | 1本/ISDB-T(地上デジタルのみ) |
| PS4・PS5での流用 | 不可(PS3のシステム側に録画制御が組み込まれているため) |
なぜ今TS抜きできるようになった?coaxが解析した中身
チューナーを制御してストリームを取り出すソフト coax が、MB86H47A の動かし方を解析してUSB経由で叩けるようにしたからだ。
coax はGo製で、クライアントCLIの coax(list・tune・scan・export・card)とデーモンの coaxd という2本立ての構成になっている。ハードウェアを直接触るのは coaxd だけで、coaxd が動いていなければクライアント側が起動し、誰も使わなくなれば自動で終了する。CGO無効でLinux・Windows・macOSのバイナリが作れて、2026年10月末時点のバージョンは 0.1.1 だ。
USBの直接制御(WinUSB/IOKit/usbfs)だけでなく、chardev(px4_drv)・pt3・pt1・Linux DVB API・Windows BDA のバックエンドを同時に持ち、全部を1つのチューナー一覧にまとめてくれる。USB対応機のリストには Sony CECH-ZD1 J が、PLEX PX-W3U4・PX-S1UR・PX-W3U3・MyGica T230・KEIAN KTV-FSUSB2・TBS 5520SE と並んで載っている。PS3の周辺機器がPLEXのチューナーと同じ棚に置かれているのが、もう笑ってしまうほど象徴的だ。
開発者のPJラボさんによると、torne は起動のたびにPS3側からファームウェアを送り込む仕組みで、今回のハックはUSB転送だけをこなす最小限のファームを流し込む方式だという。純正ファームは暗号化されていて扱いが難しい、とも説明されている。実際 coax のセットアップ文書では、ファームウェアを必要とする機種と不要な機種を分けたうえで、cech-zd1j は不要側に分類されている。だからメーカー配布パッケージからファームを抜き出す fwextract を使う必要もない。
面白いのは前面LEDの扱いだ。LEDは DiB8096 のGPIO 1につながっていて、Highで赤、Lowか入力のままで緑になる。coaxd は使用中を赤にして、終了時に緑へ戻す。純正のtorneと同じ光り方を、わざわざ再現しているわけだ。
torneをPCで使う4つのソフトの違いは?ディスク要否で選ぶ
結論から言うと、coax 系はtorneのディスクが不要で、NeToRne はディスクのダンプが必須だ。ここが選択の分かれ目になる。
NeToRne は、CECH-ZD1J をWindowsのTVTestまたはLinuxのMirakurunから使うためのソフトで、準備にtorneのディスクダンプを求める。具体的には BCJB95006/USRDIR 配下の2つのbinと、復号済みの PvrRecSvr.prx・libM2tsAes.elf を Windowsなら C:/tvtuner、Linuxなら /opt/tvtuner に置き、実行時にハッシュ検証がかかる。一部のファイルは暗号化されているので復号してから配置する必要がある、とも書かれている。つまり本体だけ買ってきても始まらない。
対して torne_drv は、torneをpx4_drvと同じ形で使えるようにする非公式のLinuxドライバーだ。映像は /dev/tornevideoN に出て、px4video系と同じioctlとread()で読める。recisdb・recpt1・Mirakurun・EDCB・KonomiTV からPLEXのチューナーと同じ扱いで使える設計で、DKMSとDebianパッケージに対応しているのでカーネル更新時に自動で再ビルドされる。ただしベータ版で、実機確認が取れているのは Ubuntu 22.04(カーネル5.15)・x86-64 の1台だけだ。
この torne_drv が成立したのも coax のおかげで、作者のmihalinnさんは MB86H47A の動かし方は coax が解析したものだと明記し、coaxのブリッジとDiB8096処理をGoからCへ移植したと説明している。オープンソースの連鎖がきれいに見える例だろう。
| ソフト | 役割 | 対応OS | torneのディスク |
|---|---|---|---|
| coax(Till0196さん) | チューナー制御とストリーム取得の本体。CLI+coaxdデーモン | Linux・Windows・macOS | 不要 |
| BonDriver_coax(Till0196さん) | coaxdのチューナーをTVTest・EDCBからBonDriverとして使う | Windows | 不要 |
| NeToRne(YotsuhaMeruさん) | TVTestまたはMirakurunから使う。BonDriver・Linux受信ソフト同梱 | Windows・Linux・NixOS | 必要(ダンプ+復号) |
| torne_drv(mihalinnさん) | px4_drv互換のLinuxドライバー。/dev/tornevideoNを生やす | Linux(Ubuntu 22.04で実機確認) | 不要 |
どれを選ぶかは環境で決まる。WindowsでTVTestを使いたいなら coax+BonDriver_coax、LinuxでMirakurunやEDCBに混ぜたいなら torne_drv、NixOSを含めた構成例やMirakurun用スクリプトごと一式で欲しいなら NeToRne——ただしNeToRneはディスクが必要になる。coaxのREADMEは最終行で、ベンダー製のファームウェアは同梱していないとはっきり断っている。配布物の線引きが明示されている点は評価したい。
PCで録画サーバーにするには何が必要?用意するものの一覧
必要なのは torne 本体、mini-B USBケーブル、アンテナケーブル、B-CASカード、そしてTVTestとBonDriver_coaxだ。
実際に動かした人の報告では、Windowsでの構成は torne 本体→coax→BonDriverProxyEx→TVTest という流れになっている。BonDriverProxyを挟めば別のマシンからも使えるという利点が挙げられている一方、初期スキャンが不安定、TOKYO MXだけ受信できない例がある、チャンネル切り替えが遅めでPTシリーズに慣れていると辛い、といった弱点も同時に報告されている。
見落としがちな朗報がカードリーダーだ。torne 本体にはB-CASカードのスロットがあり、coax はカードスロット内蔵機のスロットをPC/SCソケット経由で普通のカードリーダーとして使える(coax card)。torne_drv も同じことができて、/dev/tornecardN とpcscd用ドライバーでカードを扱う。カードはtorneに差したままにできるので、別途リーダーを買い足す必要がない。
- torne 本体(CECH-ZD1J のチューナーユニット)
- mini-B USBケーブル
- アンテナケーブル
- B-CASカード(本体のスロットに差したままで使える)
- TVTest と BonDriver_coax(Windowsの場合)
BonDriver_coax 側の設置例も公開されている。TVTest.exe の隣に BonDriver_coax.dll、winscard.dll、coaxd.exe、firmware フォルダ、そして Plugins\coax.tvtp(coax_plugin.dll をリネームしたもの)を置く形だ。設定は BonDriver_coax.ini で行う。手順はBonDriverに BonDriver_coax.dll を選び、プラグインの coax から経路と空間の設定を開いてチャンネルスキャンし、最後にTVTest側でもチャンネルスキャンをかける。
AIコーディングエージェントのCodexと一緒に実装し、8局の映像と音声が出て手動録画と短時間の予約録画まで確認できたという報告もnoteに投稿されている。解析済みのコードが公開されたあとは、こうした追従が一気に増えるものだ。
受信が安定しないときは?フォークが直した2つのポイント
選局が no_lock になって局が出ないなら、待機間隔を100msに戻し、探索を最大3回やり直す aki0429さんのフォークが候補になる。
このフォークは10月27日に更新されていて、READMEの冒頭に Sony torne(CECH-ZD1 J)の受信安定化フォークだと書かれている。安定化ドキュメントによると、症状は読売テレビ・NHK総合大阪・NHK総合京都・KBS京都が no_lock になりTVTestから選局できないというもの。修正は2点で、ひとつは復調器の選局ステップ間隔を10msから100msへ戻してFFT探索とガード区間探索が早すぎるタイミングで進むのを避けること、もうひとつはロックできなかった探索を最大3回までリトライすること(各試行前にチャンネルのプロパティキャッシュを初期化し、再試行間に100ms待つ)だ。あわせてI2C/USBの通信エラーと復調状態機械のタイムアウトを、成功に見せずエラーとして返すようにしている。
検証の作法がしっかりしているのも特徴だ。
単に局名が一覧に出たことを「視聴確認」とはしていません。
引用元:aki0429/coax
実際、各周波数をTVTest 0.10.0 x64で約6秒ずつ検証録画し、ffprobeのフレーム解析で映像と音声の両方を確認したと書かれている。チャンネル一覧に名前が出ただけで「映った」と言ってしまう記事がネットには山ほどあるので、この姿勢は信用の置き方としても参考になる。
| 検証項目 | 内容 |
|---|---|
| 検証日・環境 | 2026年10月27日/Windows 11 x86-64・WinUSB・CECH-ZD1 J 1台 |
| 比較元 | 上流 v0.1.0(ベースは上流コミット 2d9f2c2) |
| 試験回数 | BonDriver_coax経由で主要9局を連続受信、計12回の短時間試験すべて成功 |
| 確認できた局 | 13 NHK Eテレ大阪・14 読売テレビ・15 ABCテレビ・16 MBS など大阪・京都の主要局でフルセグ |
| ワンセグのみだった局 | 22ch NHK神戸・26ch サンテレビ(この検証環境での結果) |
| 変更ファイル | dib8000_tune.go・board.go・dib8096_test.go(再発防止テスト追加) |
注意したいのは、これが1台・1地域の結果だということ。受信環境が違えばno_lockの出方も変わるので、同じ修正が自分の家で効くとは限らない。
気をつけたいことは?法的リスクと性能の限界
TS抜きではTVTest側のプラグインでB-CASのスクランブルを解除するため、日本ではこうした保護の回避に法的リスクがある。
そのためツール側も、復号にあたる部分は配布物に含めていない。coaxのREADMEがベンダー製ファームウェアを同梱しないと明言し、NeToRneがディスクのダンプと復号済みファイルをユーザー自身に用意させているのも、同じ線引きの表れだ。本記事は手順を解説する立場を取らない。実際に試すなら自分で確認してほしい——こちらも弁護士ではない。
性能面の限界もはっきりしている。PT3のような専用チューナーと比べると、受信の安定性もチャンネル切り替えの速度も劣る。チューナーは1台につき1本だけ、対応するのは地デジ(ISDB-T)のみで、BS・CSは入らない。torne_drv はベータ版で実機確認はUbuntu 22.04の1台のみ、NeToRne のdescriptionには作者自身が AI Slop torne driver と書いている。安定運用のメインに据えるには、まだ荒い。
要するにこれは「実用の録画サーバーを安く作る」話ではなく、「死蔵されていたハードが動く」ことそのものを楽しむ遊びだ。だれかさんねっとさんは、ハックできると知ったらやらずにはいられない人たちが飛びついている印象で、実は録画自体には興味がないのかもしれないと分析している。言われてみると、その指摘がいちばん腑に落ちる。
中古価格はいくら?300円台から数千円への変化
2026年10月時点では、ハードオフなどの中古店で110〜550円だった個体が、数千円規模まで上がったと報告されている。
しよさんは、中古在庫が多く1台300円で手に入ったものの、相場が1桁上がった今は人に勧められるか微妙だと投稿している。名古屋のブロガーは、近所のハードオフのジャンク箱に5個ほど残っていて110〜550円だったと書いている。いずれも個人の投稿で公式の相場ではないが、桁が動いたという話は複数のソースで一致している。
そしてこの騒ぎを象徴するエピソードが、水珈琲さん(@mizucoffee)の投稿だ。ハードオフでtorneをいくつか買ったら、店員に「ts抜きですか?」と聞かれて笑ったという。店側も把握している、ということだろう。店員さんの目にどう映っているのかを想像する声もコミュニティに出ている。
| 時期・場所 | 報告された価格 |
|---|---|
| ハック拡散前の中古店 | 1台300円程度で入手できたとされる |
| 名古屋のハードオフのジャンク箱 | 110〜550円で5個ほど残っていたと報告 |
| 拡散後(2026年10月時点) | 相場が1桁上がり数千円規模になったとされる |
| 参考・2010年の新品 | 9,980円(税込・キット全体の希望小売価格) |
価格は変動するので、この数字は2026年10月時点の個人報告としてとらえてほしい。そして相場が上がったあとに飛び込むなら、動作不良品や欠品のリスクも一緒に背負うことになる。
PS3のtorneがPC録画サーバーになる話のまとめ
CECH-ZD1J は2010年3月18日に9,980円(税込)で発売されたPS3用の地上デジタルレコーダーキットで、torne はそのアプリの名前だ。中身は富士通 MB86H47A と DiBcom DiB8096、USB IDは054c:04b2、チューナーは1本でISDB-Tのみ。これをPCで動かす道を開いたのが Till0196さんの coax で、Windowsからは BonDriver_coax、Linuxでは mihalinnさんの torne_drv、Mirakurun構成込みなら YotsuhaMeruさんの NeToRne という選択肢が並ぶ。
選び分けの軸は「torneのディスクが必要か」。coax 系は不要、NeToRne はダンプと復号済みファイルが必須だ。用意するものは本体・mini-B USBケーブル・アンテナケーブル・B-CASカード・TVTestとBonDriver_coaxで、カードは本体のスロットに差したまま使えるからリーダーは要らない。受信が通らないときは、待機間隔100msと最大3回の再探索を入れた aki0429さんのフォークを試す手がある。
そして忘れてはいけないのが、B-CASのスクランブル解除には日本では法的リスクがあり、ツール側も復号部分を配布していないという点。性能もPT3には及ばない。中古相場は110〜550円から数千円規模へと上がったと報告されている。
この一件の価値は、録画環境が安く手に入ることではない。16年前のチューナーのチップ構成が解析され、LEDのGPIO番号まで含めて文書化され、GoからCへ移植され、受信が通らない症状がフォークで直って、しかも映像と音声をffprobeで確かめてから「確認」と書く——その連鎖がたった数日のあいだに公開の場で起きたことだ。古いハードを蘇らせるDIY文化が、いまも健全に機能している証拠だと見ている。
実用性で選ぶならPT3系。それでも棚の奥のtorneに手が伸びる気持ちは、まあ、よく分かる。
あわせて読みたい
スニッカー北村














コメントを残す