スケートボードのトリックには、「うまい人がやると別のトリックに見える」ものがある。トレフリップ(360フリップ)は、その筆頭だ。
ボードが縦に360度回転しながら横にフリップする——文章にすると複雑に聞こえるが、うまいスケーターが踏み切った瞬間のあの動きを見ると、なぜか「きれいだ」と思う。ポップの高さ、ボードが足の下で回る速さ、キャッチのタイミング——このトリックは技術だけでなく、スケーターのスタイルそのものが出る。
1983年にロドニー・ミューレンが生み出し、ジェイソン・リーが街へ持ち出し、ジョシュ・カリスがフィラデルフィアの路上で永遠のものにした。そして2025年にはクリス・ジョスリンが20段の階段で決め、またひとつ歴史が刻まれた。トレフリップの歴史とは、スケートボードの歴史そのものでもある。
🛹 トリックの誕生——ロドニー・ミューレンと1983年
トレフリップを発明したのはロドニー・ミューレン(Rodney Mullen)だ。1983年、当時まだフリースタイルスケートの世界にいたミューレンは、360度シャビットとキックフリップを組み合わせたこのトリックを「360シャビット・キックフリップ」として開発した。しかしフリースタイルで使う小さなボードで行われていたため、ストリートスケートシーンにはなかなか届かなかった。
ミューレン自身は「このトリックをストリートに広めたのはジェイソン・リーだ」と語っている。1991年、Blind Skateboardsの伝説的ビデオ『Video Days』でジェイソン・リーがストリートサイズのボードでトレフリップを披露し、世界中のスケーターが「あれはなんだ?」と目を疑った瞬間から、このトリックの現代史は始まる。
「トレフリップ」はスペイン語の「tres(3)」に由来する通称。「360フリップ」が正式名称だが、スケートシーンでは「トレ」と呼ぶことが多い。ちなみに「トレフリップかスリーシックスティフリップか」という呼び名の議論はスケーター間で今も続いている。
⚡ 時代を作った使い手たち
Jason Lee(ジェイソン・リー)|ストリートに持ち込んだ男
俳優として知られる前、ジェイソン・リーはBlind Skateboardsのプロスケーターとして最高潮にあった。1991年の『Video Days』(監督:スパイク・ジョーンズ)でのトレフリップは、「ストリートでのトレフリップ」の原点として今も語り継がれる。流れるようなラインの中に組み込まれた、力まない自然体のスタイルが理想とされた。
▶ YouTube で見る:Jason Lee – Video Days (1991)
Rodney Mullen(ロドニー・ミューレン)|発明者にして伝道師
発明者であるミューレンのトレフリップはフリースタイル的な精密さを持つ。平地でのトリックを極め尽くした彼のスケートは、Almost Skateboardsの『Round Three』(2004)などで見られる。2012年のTEDトークで自身の哲学とともにトリックの生まれ方を語った映像は、スケーターでなくても引き込まれる内容だ。
▶ YouTube で見る:Rodney Mullen – Almost Round Three
Josh Kalis(ジョシュ・カリス)|ラブパークとゴミ箱の伝説
トレフリップを語るうえで避けて通れない一人。フィラデルフィアのラブパーク(LOVE Park)を拠点に活動したカリスの、ゴミ箱越えのトレフリップはAlien Workshopの『Photosynthesis』(2000)で世界に知れ渡り、スケート写真史に残る一コマになった。そして2019年、43歳になったカリスが同じスポットで同じトリックを再現——衰えないスタイルとともにシーンに戻ってきた。
▶ YouTube で見る:Josh Kalis – Photosynthesis (2000)
Marc Johnson(マーク・ジョンソン)|Fully Flaredの15分間
Lakai FootwearとStacy Peraltaが手がけた『Fully Flared』(2007)でのマーク・ジョンソンのパートは、スケートビデオ史上最高のパートのひとつとして名高い。約15分に及ぶこのパートの中でトレフリップは複雑なコンビネーションに組み込まれ、彼を2008年Thrasher Magazine「スケーター・オブ・ザ・イヤー」に押し上げた。
▶ YouTube で見る:Marc Johnson – Fully Flared (2007)
Paul Rodriguez(ポール・ロドリゲス)|教科書のようなトレフリップ
「P-Rod」の愛称で知られるポール・ロドリゲスは、最もフォームが美しいトレフリップを持つスケーターの一人として評価が高い。ポップの高さ、ボードのキャッチタイミング、伸びのある着地——教科書に載せるならP-Rodのそれ、という意見は多い。GirlとPlanBを経て現在はPrimitiveを率いるが、初期の『Yeah Right!』(2003)から一貫してトレフリップのクオリティは際立っている。
▶ YouTube で見る:Paul Rodriguez – Yeah Right (2003)
Shane O’Neill(シェーン・オニール)|スイッチ・ダブルトレという次元
現代最高のテクニカルストリートスケーターの一人。シェーン・オニールのトレフリップは「完璧に回って完璧に乗る」という機械的な精度を誇る。2013年のストリートリーグ(SLS)ポートランド大会ではスイッチ・ダブル360フリップを着地——スイッチスタンスでボードを720度回転させながらフリップするという、ほぼ人外の技を決めて世界を驚かせた。NikeSBの『Levels』(2017)は彼のピークをとらえた作品。
▶ YouTube で見る:Shane O’Neill – Levels (Nike SB)
Torey Pudwill(トーリー・パドウィル)|ハリウッド16段
ビッグポップと確実性を兼ね備えたPlanBのスケーター。2010年の『Big Bang!』ではスケートボード界随一のデカい階段として知られるハリウッド16段でのトレフリップを着地し、シーンに衝撃を与えた。このパートはThrasherのYouTubeチャンネルで400万回以上再生されている。2022年の続編『Bigger Bang』でも健在ぶりを示した。
▶ YouTube で見る:Torey Pudwill – Big Bang (2010)
Yuto Horigome(堀米雄斗)|オリンピック2連覇の一端を担うトリック
日本が誇る世界最高峰のストリートスケーター。東京2020・パリ2024のオリンピック2連覇を果たした堀米雄斗のスケートは、トレフリップをラインの中に自然に組み込む能力に優れている。NikeSBの「Yuto in Tokyo」(2023)では東京の街を舞台に、スイッチ360フリップリップスライドを含む圧巻のシークエンスを披露。日本出身のスケーターがここまで世界のトップに立てることを証明し続けている。
▶ YouTube で見る:Yuto Horigome – Nike SB in Tokyo (2023)
Chris Joslin(クリス・ジョスリン)|2025年、エル・トロで歴史を刻む
2025年、スケートボード界に電撃が走った。クリス・ジョスリンがカリフォルニア州サンノゼにあるエル・トロ(El Toro)——20段の巨大階段でトレフリップを着地したのだ。Thrasher Magazineの『G-Ma』パートで公開されたこの映像は、シーンが認める「歴代トリック・オブ・ザ・イヤー」となり、彼は2025年のThrasher「スケーター・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた。トレフリップという技の可能性がまだ終わっていないことを、ジョスリンは証明してみせた。
▶ YouTube で見る:Chris Joslin – G-Ma Part (Thrasher 2025)
📋 歴代トレフリップ 年表
| 年 | 出来事 | スケーター |
|---|---|---|
| 1983 | 360フリップ発明 | Rodney Mullen |
| 1991 | ストリートでの初映像(Video Days) | Jason Lee |
| 1992 | スイッチトレフリップ 初映像 | Guy Mariano |
| 2000 | ラブパーク ゴミ箱越え(Photosynthesis) | Josh Kalis |
| 2007 | Fully Flaredで複合トリックに昇華 | Marc Johnson |
| 2010 | ハリウッド16段(Big Bang) | Torey Pudwill |
| 2013 | スイッチ・ダブル360フリップ(SLS) | Shane O’Neill |
| 2024 | パリ五輪2連覇・スイッチトレリップスライド | Yuto Horigome |
| 2025 | エル・トロ20段(G-Ma / Thrasher SOTY) | Chris Joslin |
✅ スポットギークス的まとめ
トレフリップは「スケーターの個性が最も出るトリック」とよく言われる。同じ技なのに、ジェイソン・リーとジョシュ・カリスとシェーン・オニールで全然違うものに見える。ポップの高さ、ボードの回転速度、着地の伸び——どこにそのスケーターの「好み」が出るかが違うからだ。
1983年の発明から40年以上が経ち、2025年にはエル・トロ20段で決まった。「もうこのトリックでできることはないだろう」という場所に、誰かがまた踏み込んでくる。それがトレフリップの、そしてスケートボードの面白さだ。
まず見るべき映像 3選
- 🥇 Josh Kalis – Photosynthesis(2000):ゴミ箱越えの一発。ストリートスケートの美学がここにある
- 🥇 Marc Johnson – Fully Flared(2007):トレフリップが「部品」として組み込まれるとどうなるかの答え
- 🥇 Chris Joslin – G-Ma(2025):このトリックの最新の「限界」がここにある
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