『Deus Ex』『ディスオナード』を手がけたハーヴェイ・スミス氏が、新スタジオ「Black Pony Immersive」を設立したことを明らかにした。設立は2025年8月4日で、1年間水面下で活動した末の発表となる。現在のスタッフは26名、開発中なのは未発表のシングルプレイヤー向けアクションRPG——つまり「イマーシブシム」だ。
この一報が持つ意味は重い。2024年にArkane Austinが閉鎖されたとき、多くのプレイヤーが「イマーシブシムというジャンルは終わったのかもしれない」と感じたはずだ。『Prey』を作ったスタジオが解体され、ジャンルの旗手が散り散りになった。あの喪失感は、まだ記憶に新しい。
そこへ、ジャンルの生き証人が新しい旗を立てた。しかも独りではない。Arkane、Insomniac、Epic、Avalanche、Volitionといった名だたるスタジオから集まった26名の集団としてだ。
この記事では、Black Pony Immersiveの設立メンバー・体制・資金状況といった判明している事実を整理したうえで、「なぜ今イマーシブシムなのか」という問いを掘り下げていく。ディスオナードの続きを待っている人に届けたい話だ。
まずは誰がこのスタジオを作ったのかを確認しよう。名前を見ればわかるが、これは尋常な布陣ではない。
Black Pony Immersiveとは?設立メンバーと体制は
Black Pony Immersiveは、2025年8月4日に設立されたアメリカのゲーム開発スタジオだ。イマーシブシム——一人称視点で、プレイヤーの創意工夫によって課題を解決する没入型シミュレーション——に特化したアクションRPGの開発を掲げている。
創設メンバーの顔ぶれ
| 名前 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| ハーヴェイ・スミス | CEO兼クリエイティブディレクター | 『Deus Ex』リードデザイナー/『ディスオナード』シリーズ |
| ベン・ホーン | COO兼エグゼクティブプロデューサー | Arkane |
| リカルド・ベア | クリエイティブパートナー | 『Deus Ex』シリーズデザイナー |
| モンテ・マルティネス | — | Ion Storm/WolfEye |
スミス氏がCEO兼クリエイティブディレクターを務め、Arkane時代の同僚であるベン・ホーン氏がCOO兼エグゼクティブプロデューサーとして経営を支える。そして『Deus Ex』でスミス氏と共に働いたリカルド・ベア氏がクリエイティブパートナーとして参加している。
注目したいのはモンテ・マルティネス氏の名前だ。Ion Storm出身で、その後は『Weird West』を手がけたWolfEyeに在籍していた人物である。Ion Storm、Arkane、WolfEye——イマーシブシムの系譜をたどると必ず出てくるスタジオの名前が、一つのチームに集約されている。
26名という規模の意味
スタッフ26名は、Arkane、Insomniac、Epic、Avalanche、Volitionといったスタジオから集められた。この数字は絶妙だと思う。AAAスタジオとしては小さすぎるが、インディーとしては明らかに大きい。いわゆるAAクラスの規模だ。
イマーシブシムは、作るのが極めて難しいジャンルである。プレイヤーが何をするかわからない前提でシステム同士を噛み合わせなければならず、テストコストが跳ね上がる。だから大手は避けたがる。26名という規模は、「大手の予算では成立しないが、少人数では作れない」というこのジャンルの厄介さに対する、現実的な回答なのだろう。
開発中のタイトルはどんなゲーム?資金状況は
現在開発中のタイトルは未発表だが、方向性は明かされている。シングルプレイヤー専用の、ナラティブ(物語性)が豊かなアクションRPG。スミス氏の言葉を借りれば「ナラティブが豊かなイマーシブシム」であり、プレイヤーが創意工夫で課題に取り組める体験を重視するという。
要するに、『ディスオナード』の延長線上にあるものを作ろうとしている。マルチプレイでもライブサービスでもなく、一人で遊ぶ物語重視の一人称アクションRPG。2026年の業界トレンドから見れば、これは明確に逆張りだ。
資金は「一括ではなくマイルストーン方式」
資金面についてスミス氏は、大きな資金を一度に受け取った状況ではないと明かしている。パブリッシングパートナーからの段階的な出資であり、開発の各マイルストーンを達成することで次の資金を獲得する形だという。パブリッシャー名は現時点で非公表だ。
この告白は、正直かなり生々しい。潤沢な資金を確保してスタートしたわけではなく、成果を出し続けなければ止まるという条件下で走っている。26名を抱えながらこの綱渡りをやっているという事実は、業界の現状を残酷なほど正確に映している。
スミス氏自身、この設立を「この業界の向かう先に反旗を翻すようなもの」と表現している。情熱的なゲームを作りたいという信念で立ち上げたスタジオだ、と。美しい言葉だが、その裏にはマイルストーン方式という厳しい現実がある。両方を並べて見るのが、この発表への誠実な向き合い方だろう。
なぜ今「イマーシブシム」なのか?ジャンルの現在地
イマーシブシムは、商業的には「危険なジャンル」と見なされている。この認識は業界内でほぼ共有されていると言っていい。
理由は単純だ。開発コストが高いのに、売上が読めない。プレイヤーの自由度を確保するには、あらゆる解法を想定してシステムを組む必要がある。壁を登れるようにすれば、想定外の場所に到達される。物を持てるようにすれば、それを積んで塔を作られる。この「想定外」を許容する設計こそがジャンルの本質であり、同時に開発費を膨らませる元凶でもある。
Arkane Austin閉鎖が残した傷
2024年のArkane Austin閉鎖は、この構造的問題が表面化した象徴的な出来事だった。『Prey』という傑作を生んだスタジオが、ライブサービス路線への転換を強いられた末に解体される。ジャンルの担い手が一つ、物理的に消えたわけだ。
その後、イマーシブシムの新作が定期的に供給される見通しは立っていない。WolfEyeの『Weird West』のように、規模を落として生き残る道を探る動きはあるが、『ディスオナード』級のスケールで挑む企業は減った。
だからこそBlack Pony Immersiveの設立は、単なる新スタジオ発表以上の意味を持つ。ジャンルの継承が、当事者の手で試みられているのだ。
とはいえ、期待値だけを煽るのはフェアじゃない。26名でマイルストーン方式という条件は決して有利ではないし、タイトルすら未発表の段階だ。実際に何が出てくるかは、まだ何もわからない。
ディスオナードの系譜はどこへ向かうのか?
ハーヴェイ・スミス氏のキャリアを並べると、そのままイマーシブシムの歴史になる。『Deus Ex』(2000年)のリードデザイナーを務め、その後Arkaneで『Dishonored』(2012年)と『Dishonored 2』(2016年)のディレクターを担当した。
この2作が示したのは、「プレイヤーの選択が世界を変える」という設計思想だ。誰も殺さずにクリアすることも、全員殺すこともできる。そしてその選択がエンディングや世界の状態に反映される。この仕組みは今でこそ珍しくないが、あの完成度で提示した作品は多くない。
オレはドリキャス育ちで、正直この手の一人称ゲームは後追いで触れた口だ。それでも『Dishonored』を初めて起動したときの、あの「どこへでも行けそうな気配」は忘れられない。ブリンクで屋根に飛び乗った瞬間、このゲームは自分に何も強制しないんだと理解した。あれは事件だった。
期待すべき点と、冷静に見るべき点
- 期待すべき点——Deus Ex、Dishonored、Prey、Thief: Deadly Shadowsの制作に関わった人材が集結している。ジャンルの知見という意味では、これ以上ない布陣だ
- 期待すべき点——シングルプレイ・ナラティブ重視という明確な方針。ライブサービスに寄らない姿勢を最初に打ち出している
- 冷静に見るべき点——タイトル未発表。ジャンルと方向性以外、ゲームの中身は何もわかっていない
- 冷静に見るべき点——マイルストーン方式の資金調達。開発が長期化した場合のリスクは小さくない
- 冷静に見るべき点——パブリッシャーが非公表。どの規模で世に出るのかが読めない
結論として、Black Pony Immersiveは「イマーシブシムというジャンルがまだ死んでいない」ことの証明ではある。だがそれが「傑作が出る保証」を意味するわけではない。この2つは分けて考えるべきだ。
それでも、この発表を歓迎しない理由はない。作りたい人間が集まって、作りたいものを作ろうとしている。ゲーム業界のニュースとして、これ以上に真っ当なものがあるだろうか。
まとめ|Black Pony Immersiveは26名でイマーシブシムに挑む
要点を整理する。『Deus Ex』『ディスオナード』のハーヴェイ・スミス氏が、新スタジオ「Black Pony Immersive」の設立を発表した。
- 設立/2025年8月4日(約1年間は非公表で活動)
- 体制/ハーヴェイ・スミス(CEO兼クリエイティブディレクター)、ベン・ホーン(COO兼エグゼクティブプロデューサー)、リカルド・ベア(クリエイティブパートナー)
- 規模/26名。Arkane・Insomniac・Epic・Avalanche・Volition出身者で構成
- 開発中タイトル/未発表。シングルプレイヤー向けのナラティブ重視アクションRPG(イマーシブシム)
- 資金/パブリッシングパートナーからのマイルストーン方式。パブリッシャー名は非公表
Arkane Austin閉鎖以降、途切れかけていたイマーシブシムの系譜が、当事者の手で継承されようとしている。ただしタイトル未発表・資金は段階的という条件下であり、過度な期待は禁物だ。
スポットギークス編集部の評価は「期待するが、静かに待つ」だ。Deus Ex・Dishonored・Prey・Thiefの制作に関わった人材が26名集まったという事実は、それだけでニュースの価値がある。一方で資金はマイルストーン方式、タイトルは未発表、パブリッシャーも非公表。判断材料はまだ揃っていない。イマーシブシムというジャンルの難しさを最もよく知る人間たちが、その難しさを承知で挑んでいる——今わかるのはそこまでだ。
「この業界の向かう先に反旗を翻す」。スミス氏のこの一言に痺れた人は、続報を追う価値がある。
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スニッカー北村













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