『ワイルドアームズ』の生みの親・金子彰史氏が手がけるJRPG『アームドファンタジア』の開発が中止された。発表元はイタリアのDigital Brosグループで、2026年9月24日に公開された2026年6月期の決算資料に中止の一文が記されていた。クラウドファンディングで17,920人から約3億7,900万円を集めた作品が、製品として世に出ないことが確定した形だ。
わたしがこのニュースを知ったのは、朝、通勤前にSteam Deckの充電をしながらタイムラインを眺めていたときだった。中止の告知は公式サイトでも、開発者のSNSでもなかった。イタリアの投資家向け決算資料の、業績説明のいち段落。そこに作品名が3つ並んでいた。
支援した17,920人は、まだ誰からも説明を受けていない。
開発を担当していたのはWILD BUNCH Productions。金子氏は本作でトータルゲームデザインとシナリオを務めていた。
開発中止はどう発表されたのか?
公式発表ではない。Digital Brosの取締役会が2026年9月24日に承認した2026年6月期決算の草案プレスリリース、その本文中に記載されていた。
The Group decided to discontinue the development of some videogames, Directorate: Novitiate, Armed Fantasia and the sequel to the Free to Play game Battle Island, after multiple attempts to revise their gameplay.
引用元:Digital Bros「The Board of Directors approves the Draft Financial Statements as of June 30, 2026」
訳すと「当グループは、ゲームプレイの改訂を複数回試みた末に、Directorate: Novitiate、Armed Fantasia、および基本プレイ無料タイトルBattle Islandの続編について、開発の中止を決定した」となる。打ち切られたのは3タイトルで、アームドファンタジアはその1本という扱いだ。
注目すべきは「ゲームプレイの改訂を複数回試みた末に」という部分。単に金が尽きたのではなく、作り直しを繰り返してなお判断が覆らなかった、と読める。資料はさらに「変化する市場環境と、市場投入までに必要な追加投資を考慮した徹底的な見直しの結果」と続けている。
そしてもうひとつ。本作のパブリッシャーがDigital Brosグループ(傘下に505 Games)だったことは、これまで公表されていなかった。つまりファンは「どこが出すのかを知らされないまま、中止の報せで初めてパブリッシャーの名を知った」ことになる。順番が完全に逆だ。
3億7,900万円はどこへ消えたのか?
ここは誤解が広まりやすいので、数字を正確に切り分けておきたい。
| 項目 | 数値 | 対象 |
|---|---|---|
| クラファン調達額 | 379,328,385円/17,920人 | アームドファンタジア+Penny Blood(2作合計) |
| 中止プロジェクトの償却 | 1,760万ユーロ | 中止3タイトルの合計 |
| 減損総額 | 1,870万ユーロ | 上記+販売見通し下振れ分100万ユーロ |
| グループ通期最終損益 | 650万ユーロの赤字 | Digital Brosグループ全体 |
1,760万ユーロを円換算して「アームドファンタジアに約32億円が投じられた」と書いている記事を見かけるが、これは3タイトル合計の数字で、内訳は開示されていない。本作単体にいくら使われたかは、現時点では誰にも分からない。
クラファンの3億7,900万円も同様に2作合計だ。2022年8月29日から9月30日までの32日間で実施された「Armed Fantasia & Penny Blood」は、金子彰史氏の本作と、『シャドウハーツ』の町田松三氏による『Penny Blood』を同時に支援するダブルキックスターターだった。17,920人という支援者数は、ビデオゲームのKickstarterとしても当時16位という規模である。
支援者への返金はあるのか?
2026年9月25日時点で、公式アナウンスは一切ない。
決算資料は返金にもバッカー特典にも、開発アセットの扱いにも、WILD BUNCH Productionsの今後にも触れていない。金子氏本人からの声明もなく、Kickstarterのアップデートも更新されていない。海外メディアのNoisy Pixelは、バッカーが「何の説明も受けていない状態に置かれている」と報じている。
Game*Sparkは「別の形で開発が継続される可能性も否定できない」と留保をつけている。たしかに、パブリッシャーが下りただけで企画そのものが消滅したとは限らない。ただし現状は、中止を決めた側の資料に一文あるだけで、作っていた側からは何も出ていない。
元オタクショップ店員として言わせてもらえば、ここが一番きつい。店にいた頃、予約分の入荷が飛んだときは、こちらが頭を下げて説明した。メーカーの都合であっても、金を出した人に説明するのは受け取った側の仕事だ。決算資料を各自で読んでくれ、では話にならない。
同時クラファンの『Penny Blood』はどうなった?
『Penny Blood』は今回の中止3タイトルには含まれていない。だが、状況が明るいわけでもない。
開発を手がけるSTUDIO WILDROSEによれば、パブリッシャーが決まらないまま制作が停滞しており、Kickstarterで集めた資金は2023年秋に尽きた。以降は町田氏らが自己資金で活動を続けている状態だという。
さらに2024年5月28日、STUDIO WILDROSE代表の町田松三氏が、ダブルキックスターターのプロデューサーを務めたBen Judd氏とDANGEN Entertainmentを相手取り、『Penny Blood』の制作費未払いを理由として大阪地方裁判所に提訴している。判決や和解に関する報道は確認できていない。
つまりあのダブルキックスターターは、1本が開発中止、もう1本が係争中という結末を迎えつつある。17,920人が投じた3億7,900万円は、いまのところどちらの形にもなっていない。
クラファンで大型RPGを作ることの何が難しいのか
結論から書くと、集めた資金は「完成までの総額」ではなく「開発を始めるための頭金」にしかならないからだ。
3億7,900万円は個人から集めた額としては破格だが、フルボイス・3D・数十時間のJRPGを完成させる金額としては足りない。だからパブリッシャーが必要になり、パブリッシャーが付いた瞬間に、完成させるかどうかの判断権は支援者の手を離れる。今回まさにそれが起きた。
よく引用される「Kickstarterの約9%が失敗する」という数字にも注意がいる。これはペンシルベニア大学ウォートン校のEthan Mollick教授とKickstarterが2015年に行った共同調査のもので、対象は2009年から2015年の30,323件。しかも「中止率」ではなく「資金調達に成功した案件のうち、支援者の過半数がリターン未達と判断した割合」が8.6%という内容だ。10年以上前のデータで、ゲームカテゴリ限定でもない。今回の件に当てはめて語れる数字ではない。
それでもクラファンを否定する気にはなれない。あの2022年、ワイルドアームズとシャドウハーツの続編が同時に動き出すと知ったときの熱量は本物だった。17,920人はそこに賭けた。賭けた側が悪いという話には、絶対にしたくない。
『アームドファンタジア』の開発中止は、Digital Brosの2026年6月期決算資料に記された一文でのみ判明した。中止はDirectorate: Novitiate、Battle Island続編と合わせて3タイトル、償却1,760万ユーロもその合計値で、本作単体の投資額は開示されていない。そして17,920人・約3億7,900万円を投じた支援者への説明は、2026年9月25日時点でゼロ。金子彰史氏からも、WILD BUNCH Productionsからも声明は出ていない。同時クラファンの『Penny Blood』も資金が尽き、制作費未払いをめぐる訴訟に至っている。
中止そのものより、決算資料で知らされたことの方がこたえる。17,920人はまだ、誰からも説明を受けていない。
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小田のっこ











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